黒い天使に腕枕され、包まれて安らいでいた。
天使はあの人を呼び出して欲しいと言った。
私はあの人は寝ていると言った。
天使は起こしてくれと言った。
私はやってみると言った。
あの人は起きた。
起きた途端、怒り全開モード。
「触るな」
暗い低い声で威嚇した。
天使は離さなかった。
それどころか、包む腕に力を込めた。
私は遠くから見ている。
「触るな」
今一度、あの人は言った。
離さない。
もう一度言いながら、あの人は天使の顔面を殴った。
更に抜け出そうともがいた。
天使は離すまいとする。
殴る。
もがく。
殴る。
もがく。
抜け出すと、あの人は天使を蹴り始めた。
何度も何度も。
天使は耐えるだけで、避けようともしない。
私が泣き始めると、あの人も涙を流した。
私とあの人は繋がっている。
あの人は立ち、怒りに震えていた。
「触るな」
先程より、声に怒りが込もっている。
「あの女に触っていいのは私だけだ」
「俺はあの子を愛している」
「お前の愛なんか要らない」
「君はどうして、あの子を苦しめる?」
「私はあの女が欲しい」
「愛しているのだろう?」
「違う。愛ではない。欲だ。執念だ。泣くな!」
あの人は私に言った。
「愛じゃないか」
「違う。私には愛などない。私には感情などない。あるのは、理性と…私の創った法と…快、不快だけだ」
「可哀想な奴だな」
「黙れ。私を哀れむな」
「どうして、あの子が欲しい?」
「見ていて面白いからだ。観察したい。研究したい」
「それなら、他の女の子がたくさんいるだろう?」
「嫌だ。他の女なんか要らない。あの女が欲しい」
「愛してるんだな」
「違う。言っただろ?愛なんか私にはないと」
「いやある」
「黙れ。もうすぐ、あの女が手に入る。もう心は手に入った」
「ああ。脅してな」
「違う。あの女から抱いて欲しいと言った。私のものになりたがっている」
「だから、脅したからだろう?」
「それは手段だ。ずっとあの女を見てきた。29年間、ずっと。生まれた時から、ずっと」
「愛しているからだろう?」
「違う。お前も解らない奴だな。愛などないと言うのに」
「いやある」
「お前、あの女を抱きたいのだろう?」
くっくっくっ…ハッハッハッハッ。
怖い笑い声だった。
「抱きたい。愛しているから、抱きたい」
私はまた泣き始めた。
あの人の目も、涙を流す。
「泣くな!」
「どうして、優しく見守ってやる事が出来ない?」
「あの女は他の男に抱かれた。感じ、声を出し、絶頂を迎えた」
「それも含めて、彼女だろう?どうして、苦しめる?」
「罰を与えた」
「君にそんな権利、ないだろう?」
「私にはある」
急にあの人は腕の傷をえぐり始めた。
血が出る。
痛い。
あの人の体の痛みは、私の痛み。
「止めろ!」
天使があの人の腕を掴んだ。
「触るな」
「止めろ」
「触るな」
睨み合い。
あの人は、また笑い出す。
「お前も私も、あの女に愛されたいと願う。どうしてなのかな?」
「愛しているからだ」
「あの女なんて、頭も悪く、大して美しくもなく。生きてる価値が無い。値打ちが無い」
「そんな事ない」
「黙れ。あの女を消すぞ?消してもいいなら、喋り続けろ」
天使はじっと、あの人を見つめる。
「もうすぐあの女が手に入るんだ。後、少しなんだ」
「違うな。それは、君が可哀想だからだ。母親の愛情で見ているからだ」
「黙れ。座れ。触るな」
天使がそっと離れる。
「どうして、もっと真剣に生きない?どうして、優しく包んでやらない?」
「黙れ」
「淋しかったんだな」
「違う。淋しさなんて、感じない」
「
子供だな」
「違う。黙れ」
「それは、子供が玩具が欲しいと言うのと、同じ事だよ」
「違う。私はあの女が欲しい。あの女だけが欲しい」
「それは、独占欲。つまり、愛」
「違う。あの女が抱いて欲しいと言った。だから、抱いてやろうとした。そしたら泣いた。どうして?」
「どうしてだと思う?」
「…女は
セックスを怖がる。
妊娠するかも知れないから。だから…」
「それが、子供なんだよ」
天使は笑った。
「黙れ。笑うな」
「だって、子供だ」
「違う。ずっとあの女を見てきた。ずっと、欲しかった」
「何故、愛している事を認めない?」
「認めるも何も、愛などない」
あの人は、言い切った。
ずっと同じやりとりがあった。
「何故、解らない?」
「お前と話していても、平行線だな。埒があかないな」
「そうだな」
また、しばらく同じやりとり。
あの人は
ソファーに座り、足を組み、腕を組んで、威圧的に話す。
「人間は不可解だ」
「愚かで、曖昧なのが、人間だ」
「どうして煙草を吸うのかな?どうして、不健康を買うのかな?」
「君達のように、切り替えが上手く出来ないからだよ」
天使は私の煙草を、取り出し、くわえた。
「…吸って…みようかな…」
「吸ってみるか?あの子の煙草を吸うといい」
「私もあの女と同じ事をしたい」
天使は微笑んでいる。
ソファーに戻り、煙草を取り出し、匂いをかぐ。
「香りはいいな…」
「そうだろう?」
「火をつけて、吸えばいいのだな?」
「そうだよ。吸い込んで、一旦止めて、吐く」
一服目は大丈夫だった。
しかし、二服目で激しく咳込んだ。
天使が笑う。
「あの女も笑っている」
更に二口程吸った。
咳込みながら、火を消した。
「もう要らない」
「無理するなよ」
「これ、飲んでもいいのか?」
「どうぞ」
何故か、天使とあの人は、親しく話していた。
「私はあの女を愛しているのか?」
「そうだよ」
「幸せってあるのか?」
「あるよ」
天使とあの人は友達になった。
私はあの人を愛する決意をした。
否、既に愛してた。